こんばんは。

なんやかんやで佳子さまが好き、
宝塚男子ピエールです。

 
ということでまさに明日、初日を迎える雪組大劇場公演「星逢一夜」

その作・演出を務めている上田久美子先生のバウホール公演デビュー作、
「月雲の皇子」が先日スカイステージで再放送されており、ようやく観ることができました。

とりあえず観終わったときの感想。


良い!(≧∀≦)ノシ


いやー、これは結構好きでした。

そもそも僕、「皇子(みこ)もの」とか平安ものとか好きなんですよね。

戦国ものより雅な時代の作品が好きなんです。

生まれ変わったら平安貴族になりたいと常々言ってるくらいでして。

あ、英国貴族でもいいです( ̄∀ ̄)


それはさておき、ご覧になっていない方のために概要を説明させていただきますが、
すでにご存知の方はここからしばらく読み飛ばして下さい(笑)。

ちなみにスカステに加入されている方は、
ちょうど明日の午前9時から放送されるので是非ご覧くださいませ。


ベースとなる物語は古事記や日本書紀に残された「衣通姫(そとおりひめ)伝説」

先にこの「衣通姫伝説」の概要から。

時は第19代天皇、允恭(いんぎょう)天皇の時代。

大和朝廷を治める允恭天皇には、
木梨軽皇子(きなしかるのみこ)、穴穂皇子(あなほのみこ)という二人の息子、
そして軽大娘皇女(かるのおおいらつめ)という娘がいました。
(他にも子どもはたくさんいた模様)

軽大娘皇女はその美しさがまるで「衣を通してあらわれるようだ」ということで、
「衣通姫」と呼ばれたそうです。

「衣を通してあらわれる」の意味が最初よく分からなかったのですが、
「衣服の上からでも透けて見えるほどの溢れんばかりの美しさ」という意味のようです。

ちなみに「軽大娘皇女」という呼称は劇中では登場しなかったと思いますが、
調べたら出てきたので付け加えてみました。

木梨と穴穂は次期皇位継承者の有力候補と目されていましたが、
允恭天皇がまさに崩御(死去)しようとしていた頃、
木梨は妹である衣通姫と恋に落ち、禁断の契りを交わしてしまいます。

当時は異母兄妹であれば婚姻も行われていたそうですが、
母親が同じ場合は禁じられていたんだとか。

穴穂皇子が天皇に即位するとともに、
許されざる愛を交わしてしまった木梨軽皇子は失脚して皇位継承候補から脱落、
伊予の国へ流刑となってしまいます。

しかし衣通姫もその後を追って伊予へ向かい、
再会した二人は自害して幕を閉じる、
というのが古事記に残された「衣通姫伝説」の概要です。

なお、日本書紀に残された記述は微妙に違っているらしく、
伊予に流されたのは木梨ではなく衣通姫の方だった、となっているそうです。

他にも木梨は弟の穴穂との政権争いに負けて島流しになったとか、
いろいろな解釈があるみたいですね。

いずれにせよこの時期の天皇は伝説上の人物で実在はしていない、
とも言われるほど昔の物語なので、
どの記述が正しいかどうかという答えはそもそも無いのかも知れません。


この「衣通姫伝説」をもとに描かれたのがこの「月雲の皇子」。

木梨軽皇子を主演の珠城りょうさん、
弟の穴穂皇子を現在花組の鳳月杏さん、
二人の妹でヒロインの衣通姫を現雪組トップ娘役の咲妃みゆさんが演じています。

上田久美子先生が宝塚流にアレンジを加えたこの作品の中では、
衣通姫はそもそも二人の実の妹ではなかった、という解釈になっています。

当時は大和朝廷の統治に従わない部族たちを「土蜘蛛(つちぐも)」と呼んで討伐の対象としており、
木梨と穴穂が子どもの頃にこっそりこの「土蜘蛛退治」を見物に行った際、
母が死に、取り残されていた一人の赤ちゃんを助けて帰り、
その子が允恭天皇の娘、つまり二人の妹である皇女として育てられたという設定。

そのため木梨が罰を受けたのは実妹と通じてしまったということではなく、
巫女として神に仕える役割を務めていた衣通姫にとって許されない、
「処女性の喪失」をさせてしまった罪によるもの、という解釈なのかと。

いわば神様の妻とも言える巫女である衣通姫は、
兄弟と言えど男性とは口をきくことも許されなかったそうです。

実際に「衣通姫伝説」をこのように解釈する説もあるみたいですね。

また、「月雲の皇子」では、
本当は木梨は衣通姫とは交わっていないにも関わらず、
政略争いの中に渦巻く思惑によりその罪を着せられてしまい、
神を裏切ったと見なされて荒れ果てた伊予の国に流されそうになった衣通姫を庇い、
「嫌がる妹に対して自分が強要して交わった。悪いのは自分だけだ」と言って木梨が一人で罪を背負った、
という流れになっています。

ちなみにここまでが一幕。

二幕では伊予に流された木梨軽皇子が現地の部族を率い、
大和朝廷に対して不満を抱える「土蜘蛛」を束ね、
自らを「おおきみ」と呼ばせて復讐の機会を狙っているという展開。

木梨は一幕での雅な容貌と打って変わって、
みすぼらしい格好で笑顔一つ見せずに闘う男になっています。

兄である木梨が伊予で反乱を起こそうとしているという情報を得た穴穂は、
この木梨の軍団を討伐に向かう準備を始めます。

二人の息子が殺し合うのを避けたい母は、
木梨を止めて逃げさせるために衣通姫を伊予へ向かわせました。

しかし伊予へ辿り着いた衣通姫が再会したのはかつての文芸に秀でた優しい兄の姿ではなく、
荒野で蜂起のときを待つ土蜘蛛の首領でした。

果たして衣通姫は木梨軽皇子を止められるのか、
二人の恋の運命は……という物語です。


この「衣通姫伝説」、古事記における一大英雄譚として有名な「ヤマトタケル伝説」と並んで、
「一大恋愛叙事詩」として語られているんだそうです。

恥ずかしながら全く知りませんでした(^_^;)

しかしやり方を間違えば退屈な歴史物語になってしまいそうなこの題材を、
ここまで魅力的な作品として舞台化した久美子先生はすごい!と思いました。

まず驚いたのが舞台の冒頭、
娘役さん(たぶん夏月都さん?)のナレーションで、
古事記に書かれた「衣通姫伝説」の内容が、
最後に二人が自害するというところも含めて説明されてしまうんです。

「しかしこれはあくまで後の人が記述した内容」とし、
実際はどうだったのかは分かりません、という前置きで本編が始まります。

話の大筋が分かっていないと理解しづらくなってしまう古事記の物語を、
敢えてそのストーリーを最初に語ってしまうことで観客と共有してしまう。

しかしこれから語られる物語では、その真実に迫ってみましょう、
必ずしも本に残された表面的な記録だけが全てではないかも知れませんから、
という始まりで観る人を惹き付ける。

いやはや、言ってしまえば簡単なんですが、見事な技法だな~と感心しました。

そしてこの夏月さん(と思われる方)のナレーションの声がまた良いんですよ。

本当に神話の語り部が話しているような錯覚に陥りました。

僕がNHKのプロデューサーとかだったら夏月さんを昔話とかの語り部にスカウトしたいくらい。

蕎麦屋のお品書きを読み上げられただけでも泣ける気がします(笑)。


それから何気に一番衝撃を受けたのが輝月ゆうまさん!

木梨と穴穂が勉強した塾みたいなとこの先生役なんですが、
もう10数年やってるベテランなんじゃないかというほどの貫禄!

大陸からやってきた学者仲間みたいな感じで夏美ようさんと語り合う場面とかも、
まったく違和感無いくらい対等に芝居されてるんです。

「へ~、この人いい芝居するな~」と思って調べたら何とまだ新公学年!(゚∇゚ ;)

しかも人材の宝庫でお馴染みの95期!

なんて期だっ!(゚∇゚ ;)
(バイきんぐさんの「なんて日だっ!」のノリでどうぞ)

「1789」でも秘密警察トリオの一人としてコミカルな演技を披露してますよね。

いや~、今まで全くノーマークだったんですが何かすごい人を知ってしまった気分です。


もちろんこの作品もツッコミどころや「ん?」となる点が無い訳ではなくて、
例えば「月雲の皇子」というタイトル。

「土蜘蛛」および「月蜘蛛」という言葉は出てきましたが、
「月雲」っていうのはどこかで出てきましたっけ……??

月に向かって糸を伸ばして飛んで行くという「月蜘蛛」の話が出てくるので、
それとかかってるのかなと思いましたが、
それに「月雲」という字を当てただけだとしたらタイトルとしてはどうなんだろう……と。

もしかしたらもう一回ちゃんと見たらその意味も分かるかも知れませんが。

と思っていつの間にか生で観に行っていた姉に聞いてみたら、
「私もそれが分からなかった」と(笑)。

「月雲の皇子」という言葉がすごく好きだっただけに、
その意味がいまいち分からなかったのが残念……。


あとはどこの誰かも分からない女の子を、
皇女として育てるなんてことがあり得るんだろうか、とか。

「翼ある人びと」の「ベートーヴェン?」とかも、
あれは真面目にやってるのか笑いを狙ってるのか分からず、
あそこだけシュールにする必要あったのかな……と思ってしまったり。

作品の雰囲気がすごく良いだけに気になってしまう箇所はあるんですが。

でも全体的には本当すごく好きなので、久美子先生の作品がこれからも楽しみです。

そもそもツッコミどころの無い作品を探す方が大変だったりしますしね(笑)。


久美子先生は難しい哲学書とかもたくさん読んでいるようなので、
きっと歴史などの知識も豊富な方なんだと思いますが、
それをただ作品の中に羅列するのではなくて、
ちゃんとそこから「見せたいもの」が感じられる気がします。

物語を「書いている」のではなく「描いている」と言いますか。

若手演出家にこういった先生が出てきてくれたことは、
これからの宝塚も楽しみだな~と思いました。

皇子の兄弟喧嘩と言えば「あかねさす紫の花」が代表的ですが、
「月雲の皇子」はもしかしたらそれに並ぶ名作として語り継がれるかも知れません。


ということで明日は「星逢一夜」の初日。

久美子先生の大劇場デビュー作がどんな世界を見せてくれるか、
ますます期待が膨らみますね~(≧∀≦)ノシ